PHANTASM_DANCE_HALL (SIDE : KONOHA_YAMADA)
by Itsuki_taniori
◆◇◆◇比翼の彼方◆◇◆◇
ぎぃ、と軋む木製の扉。
いつもの何倍も、それが重く感じられた。
「はぁ……はぁっ……」
美しい黒が誇りだった翼は、
いまやあちこちが千切れ、
血と泥で見るも無残に汚れている。
片方の腕も、もう感覚がない。
けれど、なんとかたどり着いた。
クウと何度も逢瀬を繰り返した、この洋館へ。
なぜと問われても、わからない。
ただ、最期を迎えるならこの場所がよかった。
よろよろと、覚束ない足取りで、
大広間の中央へと移動する。
――と、そこに先客がいることに気が付いた。
大きな血だまりの中で、ぐったりと身を横たえる、小さな少女――。
「……クウ?」
果たして、それはクウだった。
「クウっ!!」
倒れるように隣に腰を下ろし、クウを抱き起す。
「なんで、キミが……」
「……その声、コノハ?」
困惑するコノハの腕の中で、クウがうっすらと目を開いた。
彼女の瞳はコノハを捉え、そして、その背の大きな翼を捉える。
「……なんだ」
そしてクウは、脱力したように笑った。
「コノハも、ヒトじゃなかったんだ」
「え……?」
言われて、ようやく気付いた。
クウの身体から、ヒトの気配がしない。
これだけ出血しているというのに、ヒトの匂いがしない。
「……クウ、も?」
自分がヒトではないことを隠すのに必死で、
クウの正体がヒトではないなんて、思いもしなかった。
お互いに、相手がヒトだと思って正体を隠しながら、
不要な気遣いと逢瀬を繰り返していたというわけだ。
彼女もきっと、自分と同じように、
あの騎士たちに追われて、ここへたどり着いたのだろう。
「ん……」
小さく呟いて、クウはまた目を閉じる。
洋館の周囲ではヒトたちの声が続いており、
先ほどから、焦げ臭い匂いが漂ってきていた。
おそらく、館に火を放たれたのだ。
しかしもう、コノハにもクウにも、
逃げ出して戦う力は、残っていない。
と、クウがぐっと足に力を籠め、立ち上がった。
「……戦う?」
「ううん、もう無駄でしょ」
クウはゆるゆると首を振ると、「そんなことより」と笑った。
「せっかくここで会ったんだから。踊らない?」
その笑顔は、イタズラを思いついた子供のようで。
「いいですね。踊りましょう。最期まで」