PHANTASM_DANCE_HALL (SIDE : KONOHA_YAMADA)
by Itsuki_taniori
◆◇◆◇狭間に堕ちて◆◇◆◇
――それは、
次の朔まで、あと半月のときに起きた。
「この際だ、焼いてしまって構わん!」
「神に仇なす悪魔を放置するより、よほどいい!」
「いや、この森そのものが悪魔なのだ!」
ヒトの怒声と無数の足音が、森の中を踏み荒らしていく。
続いて聞こえたのは、ぱちぱちと爆ぜる音、矢が風を切る音。
そして、森の悲鳴だった。
「いったい、なにが……」
木々が、昆虫が、鳥が、動物が。
泣き叫び、怒り、恨み、そして断末魔の声を上げている。
逃げ惑う動物たちとすれ違いながら、
その元凶へと急いだコノハが目にしたのは、
森を侵す、数十人の騎士たちの姿だった。
「な……っ」
絶句するコノハ。と、その吐息が聞こえたのか、
騎士たちの一人がぐるりとこちらを向いた。
「見つけました!あちらの枝の上です!
あれこそ、村人から通報のあった悪魔の一匹に違いありません!」
途端に、武装に身を固めた集団が、いっせいにコノハを見る。
あの騎士たちの目的は、自分なのだ。
「油断するな!やつは悪魔の力を使うと聞く!
しかし、我らには神の加護がある!怯まず戦え!」
「はいっ!!」
一斉に射かけられた矢を、なんとか神通力で散らす。
祝福を受けた矢なのか、やけに重い。
強い力を放出した反動で、木の枝から転がり落ちる。
くるりと身を翻し、膝をクッションにして着地――
しかしその間に、抜剣した数人が目の前に踊りこんできていた。
「わ、あ、あ、あ、ああああああっ!」
神通力による突風をまき散らしながら、大きく後方へ跳ぶ。
なんとか騎士たちの足を止めることはできたものの、
吹き飛ばすには至らない。
ひるんだ様子もなく、神通力が弱まったとみるや即座に
また距離を詰めてくる。
そしてその間にも、二射、三射と再度矢が飛んでくる――。
村にいる狩人などとは、わけが違う。
彼らは、あやかしを狩ることを生業にしている。
このままでは――。
コノハは、漆黒の翼を大きく広げ、空へと舞い上がった。
尚もこちらを狙ってくる矢を落としながら、
呼吸と思考を必死に整える。
おそらく彼らは、自分を狩るために派遣されてきた、
なにかしらの精鋭だ。
自分を探すためなら、この森を滅ぼすことさえ厭わず、
こちらの神通力にも怯えた様子はない。
幻の類を見せることも試してみたが、
ほとんど効果がない。なんらかの対策を打たれている。
村の狩人を脅かし、追い返すのとは違う。
殺さなければ、殺される。
けれど――
コノハの脳裏に、クウの無邪気な笑顔が過った。
殺していいのか、ヒトを。
彼女の、同族を。
あの騎士たち中に、クウの家族がいないと、どうして言い切れる。
ヒトの血に汚れた手で、彼女の手を取って踊るのか。
そんなことが、許されると思っているのか。
そのわずかな逡巡は、けれどこの状況下では致命的だった。
集中が乱れ、神通力が弱まったその一瞬。
ひょう、と飛来した矢が、コノハの翼に突き刺さる。
――ああ、やっぱり。
地面へと墜ちながら、コノハは薄く笑う。
――ぼくは独りだ。